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認知症や脳卒中などの予防・治療法に結びつく画期的な発見!

武庫川女子大学 生活環境学部 食物栄養学科の大平耕司准教授らが、老化したマウスの大脳皮質(注1)に新たな神経細胞をつくることのできる細胞(神経前駆細胞(注2))が存在していることを発見しました。

(注1)大脳皮質
大脳皮質は、認識、運動、思考、記憶、意識などの脳高次機能と密接に関連しており、薄いシート状の構造で、脳の表面に位置している。

(注2)神経前駆細胞
神経幹細胞は、未分化な性状を保ったまま増殖できる自己複製能と、神経細胞とグリア細胞に分化することができる多分化能の両方をもっている。神経前駆細胞は、神経幹細胞から産み出され、自己複製能を持ち神経細胞を産生することのできる少し分化した細胞である。

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大平耕司准教授らの研究内容

ヒトの身体には、体を作る発生期だけでなく、成体内の組織にも、各組織の細胞に分化する能力をもちながら増殖することのできる少数の細胞が存在しています。このような細胞は、組織のもとになるという意味から「組織幹細胞(前駆細胞)と名付けられています。

ヒトの脳は母親の体内にいるときに作られ、赤ちゃんとして誕生すると、新しい神経細胞は作られず、減少する一方であると考えられてきました。

しかし、中枢神経系の中でも、海馬や嗅球は、一生神経細胞ができてくる部位であることが、ここ20~30年の研究で立証されてきました。

これまでに、大平氏らの研究グループでは次の発見をしてきました。

  1. 若い大人の大脳皮質にも組織前駆細胞が存在していること
  2. これらの前駆細胞を薬剤で人工的に増殖させることができること
  3. 新たにできてきた神経細胞が周りの神経細胞の脳卒中からの死滅を防ぐこと

もし、老化した脳内にも、これらの前駆細胞が存在することが明らかとなれば、老化した大脳皮質が関係する認知症やアルツハイマー病、脳卒中などの脳疾患に対する治療法の実現が期待できます。

マウスによる研究

今回、大平氏たちの研究グループは、生後5~24ヵ月のマウス(青年期から老年期にあたる期間)を使った、大脳皮質内での前駆細胞の有無と、それらの数の変化について調べた結果、すべての月齢のマウスの大脳皮質に前駆細胞があると、その存在が認められました(下の図を参照)。

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また、前駆細胞の数は、生後5ヵ月から12ヵ月までは減少もせず一定の数が保たれていたが、生後12ヵ月から17ヵ月経つと、90%以上減少するということを見出しました。

マウスの生後12ヵ月は、ヒトに置き換えると約60歳に相当します。ヒトは、ちょうど60歳頃から認知症の有病率が増加してくることを考えると、新しい神経細胞の産生の減少が認知症の発症と関係している可能性があるとも考えられます。

感情、判断を行う領域での前駆細胞の減少率

大脳皮質は、場所(領域)によって担当する機能が異なっています。
例えば、後部は視覚、中心からすぐ後の部分は触覚、その隣あった前部は運動に大きく関係しています。

そこで次に、大脳皮質の領域での前駆細胞の存在について調べました。興味深いことに、感情や判断、自己意識に関係する部位での減少率は、単純な運動や触覚に関係する部位の減少率より、目立って低いことがわかりました。

この結果は、大脳皮質でも高度な処理を行う部位は、よりその機能的保存が行われる可能性が高いことを表しています。

新しい神経細胞をつくる能力

さいごに、老化した大脳皮質の前駆細胞の新しい神経細胞をつくる能力について調べました。

生後5ヵ月と24ヵ月のマウスに対して、人工的に脳梗塞を発現させた際に、前駆細胞から産生されてくる新しい神経細胞数を数えたところ、生後24ヵ月でも脳梗塞に反応して、新しい神経細胞の産生が大幅に増加していました。

また、24ヶ月齢で脳梗塞を起こした時の新しい神経細胞数は、5ヵ月齢の健常状態よりも、多いことがわかりました。

これらのことは、老化した大脳皮質の前駆細胞は、新しい神経細胞を生み出す能力を保っていることを示唆しています。

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まとめ

今回の研究により、老化した大脳皮質にも、新しい神経細胞を生み出すことができる前駆細胞が維持されていることが明らかとなりました。

また、これらの前駆細胞が減少する時期は、ヒトの60歳ごろに相当していることから、認知症の発症と新しい神経細胞の供給との間に何らかの関係があるのではないかということも解明されました。

今後、大平氏らの研究グループでは、大脳皮質での神経前駆細胞の存在や老化過程での前駆細胞の変化などを突き止めていくことで、アルツハイマー病などの発症と大脳皮質の神経新生との関係性や因果関係について、さらなる研究を行って行くとのことです。

これらが明らかになることで、認知症や脳卒中などの脳の疾患から老化した大脳皮質を守るための予防や新たな治療法へと発展していくことになるかもしれません。